国立感染症研究所、感染症情報センターによると詳細は以下の通りだ。
○ はじめに:
手足口病(hand, foot and mouth disease:以下HFM)は、口腔粘膜および四肢末端に現われる水疱性の発疹を主症状とし、幼児を中心に流行する急性ウイルス性感染症である。発疹は、手足全体ことに肘や膝あるいは臀部周辺にもみられることもあり、一方また手足口の一部のみの発疹で終わることもある。 患者発生は世界中でみられるが、我が国では1967年頃からその存在が明らかになり、最近では1985, 1988, 1990、1995年に大きな流行がみられた。夏を中心として毎年発生がみられるが、秋や冬にもHFM の発生を見ることはある。
○ 原因ウイルス:
HFMの原因となるウイルスは一つではない。主な病因ウイルスは、エンテロウイルスであるコクサッキ−A16(CA 16)、あるいはエンテロウイルス71(EV 71) であるが、その他のエンテロウイルスによっても同様の症状を呈することがある。いずれのウイルスであっても現れる症状は同じなので、ウイルス分離を行わない限り、病原的診断は不可能である。流行の中心となるウイルスはその年によって異なり、1984年にはCA 10 によるHFM 患者が多数確認されている。
いったんHFM に罹患すると感染を受けたウイルスに対する免疫は成立するが、異なった血清型のウイルス感染を受けて再び同様の症状を現すことはあり、この場合HFM を反復して発症しているかのようにみえる。
感染経路:感染経路としては経口・飛沫・接触のいずれも重要であり、潜伏期は3〜4日位がもっとも多い。エンテロウイルス全般として、主な症状が消失した後も3〜4週間は糞便中にウイルスが排泄されることがあるので、HFMから回復した患者も、長期にわたって感染源となり得る。
○ 一般的な治療方針:
<発疹> 大部分は発疹のみの軽い疾患であり、特別な治療は必要としない。発疹に痒みや痛みを伴うことことは稀であるが、これらの症状の訴えに対して抗ヒスタミン剤の塗布程度を行うことはある。副腎皮質ステロイドホルモン剤等は、必要はない。
<口内疹>軽度の局所の疼痛とそれに伴うやはり軽度の食欲の低下(おなかはすくが痛みのために食べられない)程度ですむことが大半であるが、口腔内の症状が強いため経口摂取が不可能となり、それにより脱水症に陥る場合もあるので注意が必要である。口内疹の疼痛に対して刺激とならないような、柔らかで薄味の食べ物をすすめるが、何よりも水分摂取量が不足にならないように注意することがもっとも重要である。経口水分は特に濃厚なものでなければ何でも問題はないが、薄いお茶類、スポ−ツ飲料などは適切である。薬物による治療よりも少量頻回に水分を与える方が、重要である。 脱水症状に対しては、その程度に応じた治療を行う。
<発熱>発症初期に38度前後の発熱を伴うことが、1/2 〜1/3 程度にみられる。発熱により全身状態が侵されることはまれで、通常は解熱剤等の投与も行うことなく経過観察するのみで十分である。 抗生物質投与は、無意味である。高熱、あるいは持続する発熱は後述の合併症の徴候として重要である。
○ 合併症:
下痢を伴うことがある。整腸剤程度の投与を行うことはあるが、食事指導を行えば十分で自然回復する。
まれではあるが髄膜炎の合併があり、経過中の頭痛と嘔吐には注意が必要である。EV71感染の方が、中枢神経合併症の発生率が高い。CA 16 感染では心筋炎合併例の報告がある。
手足口病の流行中に、急性脳炎などにより急死した小児例が、マレーシア(1997年)・台湾(1998年)などで見られている。わが国でも1997年に、手足口病の経過中に死亡あるいは重篤な神経症状を合併した症例が複数の医療機関で経験され、日本感染症学会、日本小児科学会、日本小児神経学会などで報告され、国立感染症研究所ではそれらのウイルスの分析を海外例と併せて行っているが(Jpn J Inf Dis 52:12-15, 1999)、詳細な解明についてはさらに検討を続ける必要がある。
HFMは基本的にはポピュラーな軽症の疾患である。目下のところこれらの重症合併症の発生は稀なことであり、HFMになったすべての患者に厳重な警戒を呼びかける必要はないと思われる。しかし、あまり軽く考えすぎることなく、発疹の初期2-3日の症状の変化には注意すべきである。ことに、元気がない、頭痛・嘔吐を伴う、高熱を伴う、発熱が2日以上続く、などが見られた場合は慎重に対処する必要があろう。
○ 年長児・成人のHFM:
本症は4才位までの幼児を中心とした疾患であるが、学童でも流行的発生がみられることがある。また学童以上の年齢層の大半は既に不顕性感染であったことを含めこれらのウイルスの感染をすでに受けている場合が多いので、成人での発症はそう多いことではない。しかし抗体を保有していなければ当然成人でもウイルス感染を受けて、HFM となる。成人例では皮膚症状はかなり強く出現することがあるが、一般に年長である方が全身症状は軽いようである。治療法は、小児の場合と大差はない。
○ 妊婦のHFM:
前述の理由により、まれではあるがたまたま妊婦がHFMに罹患することはある。妊婦のエンテロウイルス感染により胎児異常が対象群より高率にみられたとの報告もあるが、これに対しては否定的な報告も多い。HFM の妊婦感染についての広範な調査成績はない。CA16によるHFM に伴って流産がみられたとの報告もあるが、これまでのところ妊婦のHFM による流産・胎児異常は極めてまれなものと考えられる。したがってHFM に罹患した妊婦に対しては、妊娠経過および出生した児について通常より慎重に観察を行う必要はあり、またその旨の説明を要するであろうが、不必要に妊婦に不安感を与える必要はないと考えられる。
○ 予防・登校:
排泄物に対する注意と手洗いの励行はエンテロウイルス全体の感染予防として必要なことであるが、ワクチンなどの積極的な方法は現在のところない。
本症は前述のように主症状から回復した後もウイルスは長期にわたって排泄されることがあるので、急性期のみの登校登園停止による学校・幼稚園・保育園などでの流行阻止効果はあまり期待ができない。本症の大部分は軽症疾患であり、脱水および合併症ことに髄膜炎・脳炎などについて注意がおよんでいれば問題は少ないため、発疹だけの患児に長期の欠席を強いる必要はなく、また現実的ではない。
登校登園については、流行阻止の目的というよりも患者本人の状態によって判断すればよいと考えられる。
引用:感染症情報センター
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